冠着山(かむりきやま)は、長野県千曲市と筑北村にまたがっている、信州百名山、花の50名山に選出されている里山です。
別名を「姨捨山(おばすてやま)」といい、有名な姨捨伝説の舞台となっている山です。古今和歌集に載っている句にもあるように、古くから月見の名所としても知られています。現在でも、姨捨の棚田から見る善光寺平の夜景と棚田に映る満月は、非常に人気が高く長野県内有数の観光スポットでもあります。
また、冠着山の山頂付近には「ヒメボタル」が生息しており、時期になると無数のホタルが光りながら飛び回っており、美しく幻想的な風景を見ることができます。
この記事では、冠着山の基本情報や魅力、登山コースごとの特徴などを紹介しています。冠着山登山を計画している方や、姨捨周辺の観光に興味がある方はぜひ参考にしてみて下さい。
冠着山の基本情報と魅力
長野県の北信地方、千曲市と東筑摩郡筑北村の間にそびえる標高1252mほどの里山です。ふもとの千曲川にかかる「冠着橋」からは、周囲の山々からきれいに頭一つ飛び出して見える冠のような特徴的な山容をしています。
冠着山は、景観がとても良い里山で、登山口に向かうアプローチのドライブから登山道を登っている最中まで、いたるところで美しい善光寺平の景色を中心に「山の景観」を楽しむことができます。
冠着山は1年中登ることが可能ですが、冬には積雪地帯であるため十分な装備と経験が必要です。おすすめの時期は秋で、平安時代から親しまれている月の名所で、山々の紅葉とともに中秋の名月を楽しんでみてはいかがでしょうか。
山の名前 | 冠着山(かむりきやま)、姥捨山(おばすてやま) |
---|---|
標高 | 1,252m |
エリア | 甲信越 |
詳細情報 | 冠着山の地図・天気 |
魅力その①善光寺平を一望する景色
特徴の多い冠着山ですが、何といっても善光寺平を一望する景観が最も大きな魅力でしょう。山頂からの眺望はもちろんのこと、冠着山では登山道の途中からも景色が開けるポイントがあり、全体を通して景色を楽しめる登山になるでしょう。
善光寺平とは、長野県長野市を中心とした長野盆地のことを指す通称です。善光寺を中心とした市街地に、飯綱山や戸隠など北信の山々が周りを囲むように連なり、中心には千曲川がうねりながら流れる雄大な景色が広がっています。冠着山を回り込むように走るJR篠ノ井線からの車窓は、日本三大車窓の一つに数えられています。
また、眼下に広がる善光寺平だけではなく、西の方に目を向ければ北アルプスが、東には四阿山、南に八ヶ岳・蓼科山と、素晴らしい展望が広がる里山です。
魅力その②姨捨の美しい棚田
冠着山のふもとにある姨捨地区には、約40ha、1500枚の棚田が展開しています。日本の棚田百選にも選ばれており、四季折々の豊かな表情を見せる美しい光景が広がっています。
いつ訪れても、その時期ごとの景色によって楽しめる棚田ですが、特におすすめなのは、水田に水が張り月や風景が映し出される5~6月と、稲穂が黄金色に輝き周囲の紅葉とともに輝きを放つ10~11月ごろです。
5~6月は「田毎の月」と呼ばれ、水田一枚一枚に月が映し出される歌川広重の浮世絵「信濃更科田毎月鏡台山」の光景のことを言います。実際には、水田ごとには映りませんが、月明かりに照らされた棚田の一枚に月が映りこむ光景は、趣のある落ち着いた雰囲気の美しい景観です。
一方、秋の紅葉の時期には、収穫前の黄金色に輝く稲穂が周囲の紅葉と一体化し、きらびやかで美しい光景が広がっています。特に、冠着山から見下ろす棚田の景色は美しく、きらきらと輝く棚田越しに見る善光寺平は一見の価値がある絶景です。
魅力その③月夜を彩るヒメボタル
ヒメボタルとは、日本の固有種で幼虫の時から陸上で過ごす陸生のホタルです。ヒメと名前にある通り、小さなかわいらしいホタルですが、黄金色で強い光をチカチカと発するとても美しい発光をします。
冠着山一帯は、このヒメボタルの生息地として知られており、毎年7月の中旬から下旬にかけて楽しむことができます。地元の千曲市観光局では、鑑賞ツアーも計画されており、夜間登山ならではの善光寺平の夜景や満天の星空とともにヒメボタルを楽しめます。夜間登山であり登山道は真っ暗で危険が伴いますし、ヒメボタルの生態系を壊してはいけませんので、気になる方はツアーへの参加をおすすめします。
冠着山の難易度別おすすめ登山コース
ハイキング感覚で景色を楽しむ鳥居平ピストンコース
①鳥居平登山口→35分→②冠着山山頂→25分→③鳥居平登山口
必要日数 | 日帰り登山 |
総コースタイム※ | 1時間00分 |
距離 | 約1.6km |
累積標高 | 約180m |
難易度 | ★☆☆☆☆ |
千曲市戸倉神山田温泉と筑北村の聖高原を結ぶ県道498号線の途中に案内板の設置された駐車スペースがあります。未舗装でトイレや休憩所などの施設はありませんが、20台以上駐車可能な広いスペースがあります。なお、県道498号線は12月から4月まで冬季通行止めとなるので注意が必要です。
駐車場脇から林道を登っていくと、500mほどで林道の終点に到着します。冠着山まで0.8kmの標識があり、登山道の始まりです。カラマツの斜面を登り、尾根に出ると久露滝コースとの分岐が現れます。なお、久露滝コースは崩落により通行止めになっています。
分岐からは見晴らしのいい地点が何度か現れ、四阿山や北アルプス、聖山などを眺望できる見晴らし台に到着します。見晴らし台にはベンチと展望図が設置されており、ゆっくり休憩がてら景色を堪能できます。
見晴らし台からは、緑のトンネルの中をしばらく歩くと山頂手前に冠着山権現の石祠があります。よく見ると寛政11年(1799年)と書かれており、冠着山の歴史を感じるスポットです。
頂上部は、広くなだらかで冠着神社の鳥居や祠、虚子の「更級や姨捨山の月ぞこれ」と詠まれた石碑、友愛の碑や二等三角点などがあります。方位盤には、冠着山の説明が書かれており、手力男命がこの峰に腰掛け冠を付けなおしたため冠着山と名付けられたと書かれています。
山頂からの眺望は素晴らしく、中でも善光寺平を一望できる北面の景色は一見の価値があります。長野県東信地方を代表する四阿山や、そのふもとの上田市街地、北信地方の飯綱山や戸隠の西岳など、多くの山々の展望も楽しめます。
善光寺平を眼下に眺める坊城平周回コース
①坊城平登山→35分→②分岐→20分→③冠着山山頂→15分→④分岐→20分→⑤分岐→10分→⑥坊城平登山口
必要日数 | 日帰り登山 |
総コースタイム※ | 1時間40分 |
距離 | 約1.9km |
累積標高 | 約290m |
難易度 | ★☆☆☆☆ |
冠着山のふもと、千曲市冠着橋から林道「千石線」を登っていった先にある坊城平いこいの森から登山が始まります。鳥居の手前に駐車場があり、未舗装ですが、30台ほど駐車できる広いスペースがあります。キャンプ場の水は、水源の状態が悪く飲用できません。トイレは使用可能です。
鳥居をくぐって、冠着山まで750mほど50分の登山が始まります。整備された綺麗な登山道の緑のトンネルを進むと、ぼこ抱き岩方面への分岐に到着です。途中、久露滝コースへの分岐もありますが、久露滝コースは登山道崩落のため通行止めになっているので注意してください。
北側の尾根道を登っていくと、屋根のついた見晴らし台が登場し、鳥居をくぐれば山頂に到着です。下山時には、見晴らしのいいぼこ抱き岩へ寄って、周回コースで下山すると良いでしょう。
冠着山のQA
冠着山に関する質問で多いのは、登山ルートや気温・積雪などに関することです。このような質問について以下QAを紹介します。
冠着山の登山レベルは?初心者でも登れる?
冠着山の登山ルートは、鳥居平ピストンコース、坊城平周回コースどちらも初心者の方でも十分に登ることができます。どちらのコースの登山口も標高1000mを超えており、山頂までの標高差は300mを切っていますので、体力に自信のない方でも十分に登頂可能でしょう。
また、登山道はよく整備されており道迷いの心配もありませんし、岩場・鎖場もありませんので初心者の方や登山デビューの方でも問題なく登れるでしょう。山頂では、想像以上の絶景が待っていますので、これから登山を始めようとしている方には特におすすめの山です。
冠着山の気温は?どんな服装で行けばいい?
冠着山のある千曲市の月ごとの平均最低気温と最高気温を下記の表にまとめました。冬の最高気温は1桁ですが、夏は30℃を超えてきます。また、同じ月でも最高と最低が10℃ほどの差があり、寒暖差の激しい地域です。
月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最高 | 4.6 | 5.4 | 9.6 | 17.6 | 22.7 | 25.1 | 28.8 | 30.4 | 24.9 | 18.6 | 13.2 | 7.6 |
最低 | -6.1 | -5.7 | -2.6 | 4.0 | 9.2 | 14.4 | 18.8 | 19.5 | 15.1 | 7.4 | 1.3 | -3.4 |
夏は非常に暑くなります、熱中症予防をきちんとするようにしましょう。7,8月を除けば、日によっては冷え込む場合があるので春や秋でも上着を持っていくといいでしょう。
冬期間はしっかり冷え込みますし、積雪のある地域に位置しています。アプローチの県道や林道が閉鎖になり、ゲート手前から長いアプローチになりますので、十分な下調べと装備・経験が必要です。
冠着山で見られる山の花は?見ごろは?
冠着山では晩春から秋にかけて様々な山野草のお花を見ることができます。花の50名山にも選出されている山ですので、足元のお花にも目を向けてみてください。下の表に見ごろと一緒にまとめて紹介しますので、参考にしてみてください。
山の花 | 見ごろ | 山の花 | 見ごろ |
---|---|---|---|
カタクリ | 3,4月 | シュンラン | 5月 |
アズマイチゲ | 3~5月 | エンレイソウ | 5,6月 |
ユリワサビ | 3~5月 | ニリンソウ | 5,6月 |
ヒトリシズカ | 4,5月 | アザミ | 5~8月 |
ヒカゲツツジ | 4,5月 | トリカブト | 8,9月 |
登山口へのアクセス・各種情報
どちらの登山口へも、アクセスは車がおすすめです。冬期間は、どちらの登山口へも向かう道路が通行止めとなるため、注意が必要です。
鳥居平登山口
登山口情報
長野県千曲市の戸倉上山田温泉から、麻績村・聖高原へ向かう県道498号線を上っていくと、右手に案内板のある大きな駐車場が出てきます。
松本市側からは、麻績インターから篠ノ井線に沿って進む県道494号線を北上し、県道498号線に当たるT字路を右折した先の左手に駐車場があります。
大きな未舗装の駐車スペースが用意されていて、20数台の駐車が可能です。トイレや休憩所等の施設はありませんので、利用する場合には県道498号線に入る前に済ませましょう。
登山口までのアクセス
千曲市側から
更埴ICから車で約35分
松本市側から
麻績ICから車で約20分
坊城平登山口
登山口情報
千曲市羽尾地区から、林道・仙石線を延々と登って行った先にある坊城平いこいの森キャンプ場が登山口になります。一方、松本方面からは県道494号線と県道498号線のT字路付近から、林道・冠着山線に入ると坊城平いこいの森キャンプ場まで行くことができます。
キャンプ場には、鳥居のある大きな駐車場が用意されていて、30台以上駐車可能です。キャンプ場のトイレを利用することができますが、水源の状態が悪く飲用はできないので注意しましょう。
登山口までのアクセス
千曲市側から
姨捨スマートICから車で約35分
松本市側から
麻績ICから車で約25分
冠着山周辺のおすすめ山旅スポット
湯の華銭湯 瑞祥 上山田本館
冠着山のふもと、千曲市にある昔ながらの温泉街・戸倉上山田温泉にある日帰り温泉です。戸倉上山田温泉は開湯120年を超える歴史があり、美肌の湯と言われる湯量豊富な源泉で有名な温泉地です。
瑞祥は、内湯と露天風呂にそれぞれ大きな浴槽があり、どちらも源泉かけ流しの本格的な温泉施設です。ふんわりとした硫黄の香りに、ほとんど無色透明でやや濁った湯の華が漂う温泉は、美肌の湯と言われ地元の方々にも親しまれています。
館内には、食事処もありゆっくり休憩することも可能ですので、冠着山登山の後に寄ってみてはいかがでしょうか。
さらしなの里 展望館
日本の棚田百選に選ばれている姨捨にある食事処です。地元産の手打ち蕎麦にこだわっており、人気のお蕎麦屋さんです。特に、ミニマグロ丼付きの手打ちそばセットは、姨捨の棚田で作ったお米も味わえるため、とても人気があります。
店名にもあるように、館内からは棚田と善光寺平が眼下に広がっており、姨捨の景色を展望しながら食事を楽しむことができます。冠着山登山と姨捨観光をセットに、お昼ご飯に寄ってみてはいかがでしょうか。
味噌蔵 たかむら
大正八年に創業した、信州でも歴史のある信州みそを醸造している味噌蔵です。国産の原料のみにこだわった信州みそは、日々手間暇をかけながら出来上がる深いコクとうまみが特徴的です。
味噌だけではなく、漬物や醤油、ふきみそやなめたけなどのご飯のおともに味噌パンまで、様々な商品が販売されています。アイスやジャムなどの甘味も人気で、お土産の味噌セットやちょっとしたおやつに寄ってみることをおすすめします。