秋冬の寒い季節に行うテント泊登山ではR値の高いテントマットを選ぶことで、地面からの冷えを防止することができるとされています。しかしR値の高いテントマットはフィルムが追加されているなどで夏山登山向けのテントマットと比較すると重さがあります。そこで今回は秋冬登山におすすめのテントマットの中でも軽量なモデルの紹介と、寒さをしのぐためのTipsを紹介します。
R値について
R値は熱抵抗値とも言い、テントマットがどれだけ熱を逃さないかを評価する指標です。R値が高いほど、そのマットは断熱力が高いといえます。注意点はR値が高いからと言って熱をうみ出すわけではないので、下がった温度を上げることはできません。
R値の計測は多くのメーカーが「ASTMF3340規格」を導入しています。これはテントマットを2枚のプレートで挟みます。下には冷たいプレート、上には暖かい人間の体という想定のプレートです。この上のプレートが一定の温度を維持するのに使用したエネルギーを測定し、これを元に断熱性を評価したR値を決定します。
どのシーズンにどのR値が必要か?
寝袋と異なりテントマットの使用温度を設定することは様々な要因が影響するため困難です。外気温だけでなく、地面の温度などの自然環境、性別、グランドシートのありなし、使用するテント、寝袋などを考慮する必要があります。上はシートゥサミットとサーマレストが出しているR値と適正シーズンの大まかなガイドです。
シートゥサミットでは睡眠時の体温が低めの方はR値は3.5以上で、睡眠時の体温が高めの方は2.5以上を目安にすることが分かります。サーマレストではR値は4以上を推奨しているように見られます。
テントマットだけに頼らず断熱力を上げる
テントマットだけで断熱力を上げる場合はR値の高いテントマットを選択する必要があり、そのため装備重量が重くなってしまいます。以下は僕自身が軽量化のために行っていることです。
- テントマットの下にアストロフォイルを使用
- グランドシートにタイベックシルバーを使用
アストロフォイルは気泡シートにポリエチレン樹脂と高純度アルミ箔をサンドした屋根や壁床などに使用する遮熱材です。厚みが4mmと非常に薄いながらも、地面からは冷気を効率的に反射し、体からは輻射熱(電磁波を出して周囲に熱を伝える現象)を反射するので、テントマットの下に敷くことで地面からの冷えを効率的に抑制します。
アストロフォイルは120cm✕50cm✕4mmで170gなので、これをお尻から肩までの長さ(180cmの身長の人で約80cm)を測ってカットすると、約100gと軽くすることができます。折りたたんでザックの背面パッドとして持ち運びが可能です。
これによって3シーズンで使用しているテントマットをそのまま寒い季節の登山でも活用することができます。R値の高いテントマットを追加で購入する必要がなくなり、送料込みで僅か1980円のアストロフォイルの購入のみで済ませることができます。
さらにグランドシートにタイベックシルバーを使用します。タイベックシルバーは、高密度ポリエチレン不織布タイベックにアルミニウムを蒸着させ、さらに繊維の一本いっぽんにアルミニウムの劣化を防ぐ抗酸化樹脂コーティングを施した遮熱シートです。
長期間使用しても遮熱性、防水性の劣化が少ない、強靭な建材で、役割はアストロフィルと同じです。シルバー部分をテント側に向けて使用しています。水をブロックする役割でテントに水滴の付着を抑制することもでき、擦れなどからもテントを守ることができます。
テントマットの種類を知る
登山のテント泊に使用するテントマットを大別すると、エアーマット、自動膨張式マット、クローズドセルマットの3種類に分けることができます。この3つのマットタイプにはそれぞれにメリット・デメリットがあり、それを簡単に示した表が以下になります。
※横スクロールで表がスクロールできます。タイプ | エアーマット | クローズドセルマット | 自動膨張式マット |
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メリット | ・装備の軽量化にインパクトがある ・コンパクトになる ・タイプによって地面からの冷えを解消できる | ・装備の軽量化に最もインパクトがある ・雑に扱える ・膨らませる必要がない ・撤収が早い | ・手早く膨らますことが出来る ・クローズドセルマットに比べるとコンパクトに収納可能 |
デメリット | ・破れるリスクがある ・膨らませるのに時間がかかる | ・コンパクトになりづらい | ・やや重さがある ・エアマットと比べると収納が嵩張る |
この3つのマットタイプにはそれぞれにメリット・デメリットがあり、それを簡単に示した表が以下になります。
最も軽量化にインパクトを及ぼしたい場合はエアーマット、クローズドセルマットがおすすめです。エアマットは現在3〜4万円ほどの価格設定で非常に高価なアイテムとなってしまったので、クルーズドセルマットを購入される方が増えています。
秋冬登山におすすめの軽量なテントマット
テントマットだけに頼らず断熱力を上げることができれば、必ずしもR値の高いテントマットの購入が必要ということではありません。流石に厳冬期の登山ではR値の高いテントマットを必須装備に数えるべきだと思います。今回は断熱力を上げることを前提とした3シーズンで汎用性に優れたテントマットと、寒い季節限定で使用するR値の高いテントマットを紹介します。
R値が4以上もあれば対応下限温度-10度ぐらいまでは問題なく使用することができます。しかしながらR値が4以上ともなるとテントマットの重量は400gと重くなるので、軽量化を重視する場合はR値を落とすか、非常に軽量なテントマットで断熱力を上げる対応をとることをおすすめします。
サーマレスト『ネオエアーXライトNXT』
- 重量:354g
- R値:4.5
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:7.6cm
- 価格(税込):¥39,600
サーマレストのテントマットの中でも最も汎用性のあるモデルです。静かな寝心地、7.6cmの厚さによる寝返りの打ちやすさ、R値の4.0以上の高いエアマットの中では最も軽量なモデルであることからテント泊登山をこれから始めてみようと考えている人にとって入門のエアマットとしても人気です。
サーマレスト『Zライトソル』
- 重量:410g
- R値:2
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:2.0cm
- 価格(税込):¥9,900
アコーディオンのように折りたたんで収納できるクローズドセルマットの先駆けとして多くの人たちに使用されています。アルミ蒸着により断熱性が向上しています。
山旅『ULテントマット』
- 重量:約215g
- R値:不明
- サイズ:50×180cm
- 厚さ:1.5cm
- 価格(税込):¥8,500
1.5cmの厚みのある凹凸のない超軽量なクローズドセルマットです。自分の身長に合わせてカットすることも容易で、凹凸がないため雨、水、雪などが付着してもすぐに拭き取ることができるので現場でとても扱いやすいです。
サーマレストのZライトソルやNEMOのスイッチバックなどのクローズドセルマットはアルミ蒸着によりR値を補っていますが、山旅のULマットはアルミ蒸着がされていないため、これを補うためにエマージェンシーシートを用いて冷え対策を行うと良いでしょう。
R値はテストをしてないので具体的な数値が不明なのですが、10月中旬の白馬登山で夜中に氷点下になるようなテント泊で断熱力を上げる対応を施して快適に寝ることができました。軽量化にはとてもおすすめのクローズドセルマットです。
女性向けには長さ160cmのタイプが約191gと軽くおすすめです。
NEMO『テンサーインシュレーテッドレギュラーマミー』
- 重量:410g
- R値:4.2
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:8cm
- 価格(税込):¥28,050
NEMOのエアマットは静かでサポート力のある寝心地の良さが特徴です。エアマット特有のバネのような寝心地を排除した内部構造を持ち寝返りのしやすさ、音の軽減を実感できるモデルです。ライブには超薄型のフィルム層を追加したことでR値を大幅に高め、軽さ、寝心地の良さを両立したモデルです。
NEMO『スイッチバック レギュラー』
- 重量:415g
- R値:2
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:2.3cm
- 価格(税込)¥8,800
六角形シェイプをベースにした快適な寝心地を提供するクローズドセルマットです。R値は2と高くはありませんが、断熱力を上げる対応で多くの季節で活用することができます。収納サイズを抑えたクローズドセルマットとして人気があります。
シートゥサミット『イーサーライトXTインサレーティッドマット』
- 重量:490g
- R値:3.2
- サイズ:55×183cm
- 厚さ:10cm
- 価格(税込):¥27,390
シートゥサミットで最軽量、最厚の汎用性に優れたテントマットです。インサレーションが内蔵されておりオールシーズン使えるモデルとして紹介されています。10cmもの厚さで寝心地の良さは圧倒的によく、軽さと快適さと暖かさを高次元でバランスしたシートゥサミットらしいテントマットです。
ビッグアグネス『ディバイド インシュレーテッド』
- 重量:652g
- R値:4
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:中心:8cm、両サイド:9cm
- 価格(税込):¥19,910
重量は600g台の重さがありますが、リップストップナイロンによる耐久性と暖かさを両立したエアマットの中では最も価格が安いコストパフォーマンスに優れたモデルです。エアマットの中にはサーモライトによる断熱システムと熱反射フィルムが入っており暖かく快適です。
ビッグアグネス『ズームULインシュレーテッド』
- 重量:397g
- R値:4.3
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:中心:8cm、両サイド:9cm
- 価格(税込):¥30,800
2層の熱反射フィルムで高いR値のエアマットに仕上げています。R値の高さに対して300g台の超軽量なモデルで装備の軽量化にもインパクトを及ぼすモデルです。
EXPED『Ultra5R』
- 重量:585g
- R値:4.8
- サイズ:52×183cm
- 厚さ:7cm
- 価格(税込):¥30,800
エアマットの中に断熱材が封入され高いR値と寝心地の良さを追求したテントマットです。20デニールの厚みのある生地で耐久性にも優れているので、エアマットの弱さともいえるパンクリスクが少ないモデルです。
サーマレスト『ネオエアーXサーモNXT』
- 重量:439g
- R値:7.6
- サイズ:51×183cm
- 厚さ:7.6cm
- 価格(税込):¥44,000
R値7.6で重量439gは圧倒的なパフォーマンスです。R値が7以上のテントマットは珍しく、重さも5以上で800g以上となるテントマットはいくつか見受けられます。極寒の環境下で暖かく過ごすためのテントマットで雪山登山をする人たちに絶大な信頼感のあるテントマットです。
まとめ
エアマットの中では、R値が高く軽量性にも優れているモデルはサーマレスト一択です。しかしながら価格が高いのも実態です。まずは断熱性を高める対応を行いつつ、夏山登山でも使用しているエアマットを活用するという方法を検討しても良いかもしれません。また軽量なマットと断熱対策を組み合わせることで、装備の軽量化も難しくありません。
自分がどこまで冷えに対しての耐性があるのか、まずは比較的難しくないキャンプで実践してからR値の高いエアマットが必要かどうかを考えてみても良いでしょう。