前穂高岳は長野県と岐阜県にまたがる山塊のうちのひとつです。その中に穂高の名をもつ山は4つあり、北から「北穂高岳」「奥穂高岳」が並び、南西に「西穂高岳」がそびえています。前穂高岳は奥穂高岳からみて南東に位置します。
4つとも3000ⅿ級と標高が高く、切り立った岩稜を歩く必要があるため、上級者向けです。体力や技術が必要になるため、穂高岳に挑戦する場合は事前準備をしっかり行いましょう。最初は一山一山ピストンコースで登るのがおすすめです。
前穂高岳の基本情報と魅力
前穂高岳は北アルプスの百名山のひとつである穂高連峰の中で唯一、長野県だけの山です。長野県と岐阜県の県境となっている槍ヶ岳・穂高連峰の主稜線からは東にずれた場所にあり、頂上から奥穂高連峰を一望できます。上高地から岳沢経由で直接頂上へ登れる点でも、多くの登山者に人気があります。
またロッククライミングの聖地でもあり、井上靖の名作「氷壁」の中で魚津恭太と小坂乙彦が墜落事故を起こしナイロンザイルが切れるアクシデントにあうシーンは実際に起きた事故がモデルとなっています。
登山を楽しめる期間は4月末から11月はじめまでです。天候が安定する7~8月や紅葉を楽しめる9月下旬から10月上旬は人気があります。
山の名前 | 前穂高岳 |
標高 | 3,090m |
エリア | 北アルプス |
詳細情報 | 前穂高岳の地図・天気 |
前穂高岳の魅力① 山頂からは北アルプスの連峰を一望
前穂高岳の山頂からは、険しい北アルプスの山並みを一望できます。微視穂高岳や岩の要塞と呼ばれるジャンダルム、奥穂高岳、北穂高岳が続き、奥には天をつきさすように槍ヶ岳がそびえています。
前穂高岳の魅力② クライマーに人気の名ルート
前穂高岳はアルパインクライマーに人気の山です。山頂から北東に伸びる「前穂高岳北尾根」や奥又白池を基点に登る「東壁」には、多くのクライマーが登頂を目標とするルートがたくさんあります。
前穂高岳の魅力③ 険しい岩壁に広がる四季の美しさ
圧倒的なスケールで立ちはだかる岩壁ですが、そこには四季それぞれの美しい自然が広がっています。遅い雪解けの中で残雪の白と芽吹きの緑が美しい春、高山植物が咲き乱れる夏、澄んだ空と燃える紅葉のコントラストが映える秋、厳しくも美しい雪と氷の世界があらわれる冬。季節を変えて登山すると、前穂高岳のさまざまな表情を楽しめます。
前穂高岳の難易度別おすすめ登山コース
穂高岳を初めて登る方向けのピストンコースと、北穂高岳・奥穂高岳をめぐる周回コースを紹介します。
1.「重太郎新道」穂高岳初心者におすすめ 上高地からのピストンコース
コース・所要時間(目安)
1日目:河童橋(5分)→上高地ホテル白樺荘(50分)→天然クーラー(55分)→岳沢小屋テント場
2日目:岳沢小屋テント場(41分)→カモシカの立場(16分)→岳沢パノラマ(16分)→雷鳥広場(7分)→紀美子平(25分)→前穂高岳(22分)→紀美子平(3分)→雷鳥広場(12分)→岳沢パノラマ(11分)→カモシカの立場(29分)→岳沢小屋テント場(1時間8分)→岳沢湿原(7分)→上高地ホテル白樺荘(4分)→河童橋
必要日数 | 1泊2日 |
総コースタイム | 10時間6分 |
休憩時間目安 | 2時間13分 |
距離 | 11.7㎞ |
累積標高 | 1623m |
難易度 | ★★★★☆ |
コース概要
上高地バスターミナルから河童橋を渡り、出発から約20分歩くと岳沢登山口に到着です。ここから森林内の登山道を進みましょう。
1時間ほど歩くと、「天然クーラー」と呼ばれる風穴が出てきます。洞穴から流れ出る天然の冷気で汗ばんだ体を冷やしましょう。
しばらくするとガレ場があらわれ、初日に宿泊地である「岳沢小屋」に到着します。
2日目は岳沢小屋を出て40分ほど歩くと、カモシカの立場と書かれた岩場がみえてきます。カモシカになりきった写真撮影が人気です。
岳沢小屋のあたりを一望できる「岳沢パノラマ」を通り過ぎ、前穂高岳と奥穂高岳の分岐点に位置する「紀美子平」に到着です。かつて穂高山荘の礎を築いた今田重太郎が、娘の紀美子を遊ばせていたことからその名がつけられました。ここからはむき出しの岩場が多い急登ルートです。ヘルメットを着用して落石に注意しながら、はしご場やくさり場のある斜面を進みます。
「紀美子平」に着くころには森林限界を超えているため、岩稜帯が広がります。岩場のルートが続きますが、目印を丁寧にたどって登れば、特に難しい箇所はありません。
30分ほどで山頂に到着。
山頂直下では渋滞になることがありますので、落石に十分注意しましょう。前穂高岳からの北アルプスの山々を堪能したら、下りも落石を落とさないよう慎重に下山します。
2.中・上級者向け!北穂高岳から奥穂高岳・前穂高岳をめぐる周回コース
中級者でも、ツアーや上級者とともに巡れる穂高岳周回コースです。宿泊を増やして、ゆっくり登ってもよいでしょう。
コース・所要時間(目安)
1日目:上高地バスターミナル(37分)→明神館(41分)→徳沢キャンプ場(43分 )→横尾キャンプ場(2時間20分)→涸沢テント場(2時間)→北穂高岳→北穂高小屋
2日目:北穂高小屋(1時間4分)→涸沢岳(3分)→穂高岳山荘(19分)→奥穂高岳(59分)→紀美子平(8分)→前穂高岳(7分)→紀美子平(5分)→雷鳥広場(11分)→岳沢パノラマ(10分)→カモシカの立場(26分)→岳沢小屋テント場(1時間14分)岳沢湿原(10分)→河童橋
必要日数 | 1泊2日 |
総コースタイム | 15時間13分 |
休憩時間目安 | 2時間 |
距離 | 26.2㎞ |
累積標高 | 2480m |
難易度 | ★★★★☆ |
コース概要
上高地バスターミナルで降車し、まずは横尾まで平坦なハイキングコースを歩きます。明神池などの観光名所もチェックしておきましょう。
横尾山荘の目の前にある橋が横尾大橋です。この橋を渡ると、横尾沢に沿って登山道がみえてきます。
ところどころ視界が開ける場所がありますので、北アルプスのスカイラインを堪能してください。本谷橋を渡り、「Sガレ」を過ぎると、涸沢テント場に到着です。こちらの山小屋で一度休憩しましょう。
涸沢を出発し、灌木帯の岩場を登っていきます。南稜から南峰まで岩場の難所が続きますが、しっかり整備されていますので慎重に登っていきましょう。岩場を登りきると、北穂高岳に到着です。2日目に登る奥穂高岳や前穂高岳を眺められます。
景色を楽しんだら、北穂高小屋に宿泊です。
2日目は北穂高岳小屋から穂高岳山荘を目指しますが、いきなり難所を迎えます。有名な「大キレット」以上といわれており、切り立った岩峰を避けてつくられた登山道です。鎖やはしご場の急な昇り降りを繰り返しますので、岩に付けられたペンキを目印に進みましょう。晴れていれば、涸沢岳の山頂付近から穂高岳山荘が見えます。
穂高岳山荘で一息ついたら、2つ目の穂高岳である奥穂高岳を目指します。広い尾根の岩場を登っていきますが、落石に注意が必要です。急斜面を登りつめると、奥穂高岳山頂に到着です。
奥穂高岳から前穂高岳をつなぐ岩稜はつり橋のような美しい弧を描いており、「吊尾根」と呼ばれています。前穂高岳方面に向かう登山道も、岩場の難所が続きます。
紀美子平に入ると、前穂高岳山頂はもうすぐです。山頂からは、今回たどったルートを見渡せるでしょう。手前に登ってきた奥穂高岳、奥にはそびえたつ槍ヶ岳と、北アルプスを一望でき、まさに絶景です。
帰りは岳沢小屋を通ってバスターミナルまで下山しましょう。
駐車場について
紹介したコースの登山口である上高地は自然保護のため、マイカーでの乗り入れが規制されています。沢渡駐車場または平湯駐車場に車を停めて、シャトルバスにのりかえましょう。
松本方面から向かう場合は、沢渡駐車場でシャトルバスやタクシーに乗り換えます。
沢渡駐車場は市営駐車場が4か所、民間駐車場が10か所あり、約2,000台収容可能です。普通車の駐車料金は1日700円で、4月中旬から11月中旬まで営業しています。5月の連休やお盆、紅葉シーズンの連休などは朝8~9時台から満車になることもありますので、利用したい場合は早めに到着できるようにしましょう。
標高約1,000mに位置し、駐車場近くのナショナルパークゲートには、トイレや売店があります。
岐阜・高山方面からマイカーでアクセスする場合は、平湯あかんだな駐車場を利用しましょう。平湯あかんだな駐車場は標高約1,300mに位置しており、約850台駐車できます。
こちらの駐車場も4月中旬から11月中旬までの営業です。普通車の駐車料金は1日600円で、24時間入出庫できます。駐車場周辺にある、ガイアパークセンターにてトイレや売店が利用可能です。
前穂高岳のQA
登山ルートの難易度や装備、天気についての質問が多くみられます。
Q.私の技術で、穂高岳山荘まで行けるでしょうか。
A.ガイドブック等で、これまでの山行歴と比較して検討するようにしてください。これ
までの登山で、「岩稜線歩き、長時間歩行、標高2800m以上」の経験があることが望ましいです。不安がある場合は、同行者に相談するか、山岳ガイドやツアーを利用すると良いでしょう。はじめての前穂高岳登山であれば、上高地から涸沢経由か、ザイテングラードのルートがおすすめです。
Q.はじめての穂高岳登山です。どのような日程とルートがおすすめですか。
A.穂高岳にはじめて登山する場合は、余裕をもって日程を組むようにしましょう。
ルートは涸沢からザイテングラートを経由するピストンコースにし、1日で上高地から穂高岳山荘まで登頂することは困難であることを頭に入れて計画を立てます。またザイテングラートは切り立った岩場でくさり場やはしご場があり、十分な経験が必要です。本谷橋から先は距離に対して高度差が大きくなるため、体を慣らしながらゆっくり登りましょう。
日程例
1日目:自宅から午後に移動し、上高地で宿泊
2日目:朝に上高地から歩き始め、涸沢で宿泊
3日目:朝に涸沢から歩き始め、前穂高岳登頂。その後涸沢まで下山
4日目:涸沢から下山し、帰宅
Q.どういった装備が必要でしょうか。
A.登山靴は足を覆えるもの(ハイカット)で底やつま先がしっかりした3,000mの岩稜帯に対応するものを選びましょう。雨具はゴアテックスなどの防水透湿性能のあるもの、防寒着は着脱しやすく軽いものがおすすめです。万が一のためにヘッドランプは必ず持参しましょう。
Q.山荘付近の気温はどのぐらいになりますか。
A.標高約3,000m付近に位置する穂高岳山荘付近では、一番暑い時期でも昼間は18℃、夜間は5℃前後まで気温が下がります。標高が100m上がると、気温は0.6℃下がるといわれています。
天候によっても体感温度はかなり変動します。晴れた日の行動中は熱さを感じますが、悪天候であれば真夏でも寒く感じるでしょう。着脱しやすい、保温や防風機能のある衣服を準備してください。
Q.雪が残っているのは何月ごろですか。また、何月ごろから降雪がありますか。
A.その年の機構によって変動がみられますが、9月下旬からは降雪の可能性があります。例年9月中旬から下旬に初霜、初雪がみられ、10月に入ると積雪があります。
残雪については夏山シーズンでも7月中旬まで、秋山シーズンでは9月下旬から軽アイゼンの持参がおすすめです。
登山口へのアクセス・各種情報
前穂高岳登山には、上高地登山口の利用がおすすめです。マイカーが規制されていますので、周辺の駐車場でシャトルバスに乗り換えるか、直通バスを利用しましょう。
上高地登山口
槍ヶ岳や穂高連峰をはじめとする北アルプス南部の代表的な登山口です。上高地は中部山岳国立公園の一部であり、国の文化財に指定されています。標高は約1,500mで、宿泊施設や温泉地のある観光名所として有名ですが、穂高連峰や槍ヶ岳への登山基地でもあります。
上高地バスターミナルにはトイレや登山ポストが設置されているほか、食事やお風呂も利用できます。
車からのアクセス
周辺の駐車場にマイカーを停め、シャトルバスまたはタクシーに乗り換えます。
松本方面から→沢渡駐車場
沢渡シャトルバスの利用料金は、往復2,400円です。シャトルバスに関する詳細情報はこちらから確認してください。
タクシーは定額運賃で運行しています。利用料金は特定大型車で片道7,500円、普通車で片道4,600円です。
岐阜・高山方面から→平湯あかんだな駐車場
上高地バスターミナルまでの利用料金は往復2,090円です。詳細情報はこちらからご確認ください。
タクシーは定額運賃で、特定大型車は片道8,000円、普通車は片道5,000円で利用できます。
公共交通機関でのアクセス
松本駅から
松本駅から松本電鉄上高地線の新島々駅で路線バスに乗り換え、上高地まで約1時間30分で到着します。
高山駅から
高山駅にある高山飛騨バスセンターから平湯バスターミナルまで路線バスで移動します。シャトルバスまたはタクシーに乗り換え、約1時間25分で上高地に到着です。
直行バス
東京・名古屋・大阪から上高地への直行バスが出ています。予約が必要ですが、上高地まで乗り換えなしで到着できます。
信州まつもと空港から
飛行機を利用する場合は、信州まつもと空港から上高地まではタクシー利用が便利です。
前穂高岳周辺の観光スポット
中の湯温泉旅館
信州といえばお蕎麦が有名ですが、こちらの旅館で提供されている中の湯そばは、当日挽きたて・打ちたてにこだわっています。香りがよく、色つやや、麺のコシも一級品です。
宿泊者だけでなく、日帰り入浴の利用者でも蕎麦を味わえますので、温泉とともに楽しんではいかがでしょうか。
ただし数量限定のため、忘れずに予約をしておきましょう。
氷壁の宿 徳澤園
徳澤園のみちくさ食堂では自家製野沢菜を使った野沢菜チャーハンや、本格的なスパイスが自慢の手作りカレーなどが人気です。窯焼きピザもメニューに加わり、ボローニャハムときのこが乗ったトマトソースのピザと、4種のチーズに安曇野産アカシアはちみつが添えられたあまじょっぱいピザが楽しめます。
また行列のできる程人気のソフトクリームとコーヒーソフトは、ぜひ試してみたい一品です。
営業時間
7:30~15:00ラストオーダー
夕食はテイクアウト、当日16:30までに予約が必要
坂巻温泉旅館
坂巻温泉は、梓川に面した谷あいの山々を眺めながらくつろげる温泉です。良く温まることから「子宝の湯」として知られ、冷え性や皮膚病・胃腸病・婦人病などに効果があるといわれています。また神経痛や筋肉痛・関節痛などの疲労回復効果も感じられますので、登山で疲れた体を癒しに訪れてはいかがでしょうか。
入浴時間
露天風呂 9:00~16:00
内湯 11:00~16:00
入浴料金
大人600円 子ども300円