シュラフ(寝袋)にはさまざまな種類があり、価格もピンキリで、どれを選べばいいか迷いますよね。また、シュラフは使用シーンによって最適なものが異なるので、適当に選ぶと失敗してしまうこともあるでしょう。そこで、今回は、シュラフの選び方を詳しく解説します。とくに、軽量かつコンパクトなダウンシュラフに焦点を当てて要点をまとめましたので、シュラフを選ぶ際の参考にしてみてくださいね。
シュラフ中綿の素材はおもにダウンか化繊
シュラフで暖かく寝れる理由は、中綿が外気を遮断し、体温の低下を防いでくれるからです。シュラフの中綿には、おもにダウンや化繊の素材が使われます。ダウンの特徴は、軽量かつコンパクトですが、水濡れに弱い点があります。一方、化繊は安価でメンテナンスがしやすいですが、収納サイズが大きくなりがちです。
ダウン | 化繊 | |
---|---|---|
軽量性 | 軽い | 重い |
収納性 | 小さくなる | 大きい |
水濡れの影響 | 濡れると保温力が落ちる | 濡れても保温力は落ちない |
メンテナンス性 | やや面倒 | 簡単 |
価格 | 高価 | 安価 |
シュラフの保温構造
シュラフの構造に注目すると、形や縫製方法に違いがあります。
封筒型と人形型
シュラフの形は、おもに封筒型と人形型の2つがあります。封筒型はゆったりできるスペースがありますが、頭側の開口部から冷気が入りやすいです。一方、人形型は体にピッタリとフィットするので冷気は入りづらいですが、その反面、やや窮屈に感じることがあります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
封筒型 | ゆとりがある | 冷気が入り込みやすい |
人形型 | 冷気が入り込みづらい | 窮屈感がある |
シングルキルトとボックスキルト
キルト構造(縫い方)には、おもにシングルキルトとボックスキルトの2種類があります。シングルキルトは表地と裏地を直接縫い合わせ、その空間に中綿が入っている構造です。軽い一方、縫い目から冷気が入りやすくなります。ボックスキルトは表地と裏地の間に通気性のあるメッシュを配置し、縦横にボックスができる構造です。中綿の偏りが少なく保温力も高いですが、重くなりがちです。
シングルキルト | ボックスキルト | |
---|---|---|
構造 | ||
軽量性 | 軽い | 重い |
保温力 | 低い | 高い |
価格 | 安い | 高い |
シュラフ選びの指標「ヨーロピアンノーム」とは?
シュラフの性能において、もっとも重視するポイントは「使用できる温度域」です。使用シーンによって最適なシュラフは異なるため、シュラフの性能である、使用できる温度域を確認しましょう。
シュラフの性能は、「ヨーロピアンノーム」という指標を用いると比較しやすいです。ヨーロピアンノームは、EU諸国における統一規格として制定されている規格の総称です。検査は認定された第三者機関が行っているため、公平なデータを算出できます。
※ヨーロピアンノームの表記:EN13537、ISO23537
ヨーロピアンノームの検査方法
ヨーロピアンノームの検査方法は以下の通りです。
温度センサーが装備されたマネキンに長袖と足首までアンダーウエアを着せ、スリーピングバックに寝かせてキャンプ用のマットレスの上にのせます。マネキンの内側5箇所の温度が測定され、放熱の度合いを計測します。計測された温度と実験室の気温を計算式にあてはめて値を算出します。スリーピングバックの保温性能は単純な中綿の量だけでなく、布地の種類や厚み・ジッパー等にも影響を受けるため、テストではこれらを総合的に判断します。
EUROPEAN NORM – NANGA | ナンガ より引用
この検査方法では、寝る姿勢や寝返りが考慮されていません。また、温度表記はヨーロッパ人の体格を想定しているため、あくまで目安に考えるとよいでしょう。
ヨーロピアンノームの温度表記
ヨーロピアンノームの温度表記は3つ種類があります。いずれも、ヨーロッパ人の体格を想定した温度表記です。
快適使用温度(COMFORT)
快適使用温度は、一般的な成人女性が寒さを感じることなく寝ることができる温度域とされています。シュラフ選びには、この快適使用温度を目安にするとよいでしょう。
下限温度(LIMIT)
下限温度は、一般的な成人男性が寝袋の中で丸くなり、8時間寝られる温度域とされています。
極限温度(EXTREME)
極限温度は、一般的な女性がスリーピングバックの中でひざを抱えるくらい丸くなった状態で、6時間までなら耐えられる温度域とされています。しかし、この温度域では体温を維持するのは難しく、低体温症になるおそれがあるため危険です。
ダウンシュラフの選び方
ダウンシュラフの構造や性能について学んだところで、次は、実際にシュラフ選び方について解説します。軸となる考えは、以下の2つです。
使用時期・場所から気温を推定する
まずは、シュラフをどのシーンで使うか考えましょう。使用時期や場所によって環境が異なるため、使用シーンではどれくらいの気温になるか推測するのが大事です。
気温については、気象庁のウェブサイトから過去データを見ることで、目安の気温が調べられます。一方、山で標高の高い場所では平地よりも気温が低くなり、標高が100m上がるごとに気温は約0.6℃下がるとされています。これらの情報から、使用シーンがどれくらいの気温になるか推測しましょう。
▼使用時期・場所における平均気温と最低気温の比較
時期 | 場所 | 平均気温 | 最低気温 |
---|---|---|---|
7月 | 燕岳・燕山荘(長野県・標高2,712m地点)※1 | 約12℃ | 約8℃ |
7月 | 長野県松本市 | 24.2℃ | 19.8℃ |
10月 | 長野県松本市 | 13.9℃ | 9.2℃ |
※燕山荘の気温は、松本市の気温より約12℃低い(燕山荘のHPより)
快適使用温度を目安にシュラフを選ぶ
使用シーンで推定した最低気温をもとに、適したシュラフの性能を選びます。シュラフの性能は、ヨーロピアンノームの「快適使用温度」の表記を目安にするとよいでしょう。その理由として、下限温度での使用は、男性であっても個人差があり、人によっては寒さを感じる場合があるからです。また、ヨーロピアンノームの検査方法はヨーロッパ人の体格を想定しており、日本人のように体格が小さい場合、発熱量が少なくなることが考えられます。
寝具はシュラフと併せてマットを用意しよう
快適に寝るために、シュラフと併せてマットを用意するとよいでしょう。寝る場所の床が硬かったり、デコボコしていたりすると、寝づらくなります。また、マットは地面から伝わる冷気を遮断する役割もあります。そのため、マットは心地よく寝るために欠かせません。
ダウンシュラフの選び方Q&A
シュラフの選び方において、疑問にでてきそうな事柄5つについて解説していきます。
メーカー独自基準の温度表記の場合はどう比較すればいい?
メーカー独自基準の温度表記を安易に信用してはいけません。というのも、温度表記はヨーロピアンノームの規格でいう「下限温度」に相当することがあり、温度表記内で使用しても人によっては寒さを感じることもあるからです。
そのため、メーカー独自基準で温度表記をしているシュラフメーカーに問い合わせしてみるとよいでしょう。
・温度表記は、ヨーロピアンノームの規格と比べてどうなのか?
・検査方法はどのように行われているのか?
・どのような使用シーンを想定しているのか?
など、これらの情報を手に入れることで、シュラフの性能を比較できるでしょう。
重ね着すれば下限温度以下でも使える?
重ね着をすれば下限温度以下でも使える可能性がありますが、実際にどれくらいの寒さをしのげるかは、やってみないと分からない点があります。もし挑戦してみる場合は、安全を考慮して多めに服をもっていくとよいでしょう。
また、重ね着以外でも、サーマルシーツやシュラフカバーを用いることで、シュラフの性能を向上させることができます。
春~秋の3シーズン使いたい場合はどう選べばいい?
選び方は2つの案あります。
①寒い時期の気温に合わせて選ぶ
寒い時期に使うことを想定してシュラフを選べば、寒くて寝れないという失敗は防げるでしょう。夏の暑い時期では、シュラフのジップを開けて寝れば体温を調節できます。
②メインシーズンの気温に合わせて選ぶ
たとえば、夏に多く使う場合、夏向けのシュラフを選びます。春秋にシュラフを使う場合は、重ね着をしたり、サーマルシーツやシュラフカバーを組み合わせて使ったりすることで快適に寝れます。
シュラフ選びで快適使用温度以外に見るポイントはある?
収納サイズや軽さを確認してみましょう。とくにダウンは質によってサイズや軽さが変わります。ダウンの質はフィルパワーの数値が高いほど軽量かつコンパクトになります。また、店舗であれば実際にシュラフのなかに入って、寝心地や使い心地を確かめてみるのもおすすめです。
※フィルパワー(FP):ダウンの膨らむ力を数値化したもの。
シュラフのおすすめのメーカーは?
おすすめのシュラフメーカーは、モンベルやナンガです。
モンベルのシュラフは多彩なラインナップがあり、用途に応じて最適なものを選べます。また、シュラフは伸縮性が優れており、寝返りが打ちやすいのが特徴です。
一方、ナンガのシュラフは高価であるものの高品質で、さらに永久保証がつきます。アフターケアもしっかりしているので、長く使い続けたいユーザーにはおすすめのメーカーです。
理想のダウンシュラフを探して快適に寝よう
ダウンシュラフの選び方について解説しました。重要なポイントは、使用シーンに対してシュラフの性能が適しているものを選ぶことです。シュラフの性能は、ヨーロピアンノームの快適使用温度を目安にするのがおすすめです。さらに、シュラフに実際に入ってみて、寝心地や使い心地を確認すると、自分の理想のシュラフを見つけやすくなります。